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大阪高等裁判所 昭和25年(ラ)15号 決定 1950年6月19日

抗告人 田辺盈雄

主文

原審判を取り消す。

抗告人の名「雄」を「健司」と変更する。

理由

本件抗告理由は末尾添付の別紙に記載する通りであつて、これに対する判断は次のようである。

案ずるのに、抗告人の名の「雄(ミチオ)」の「」は「」とも書かれ、また漢和大辞典には「盈」と記載されて居り、この三つの字画のどれが正しいか容易に決められないような字であつて、平常余り使用されないものであることは、当裁判所に顕著な所で、この文字が当用漢字に採用されなかつたのは、当然であるといつてよい。そうして正人がしばしば抗告人の名を「孟雄」または「猛雄」と誤語した実例のあつたことは、本件記録中の疎第三、四号証によつて看取され本件記録中の疎第五ないし第七号証及び原審での抗告人の審尋の結果からあるいは時として第三者が勝手に抗告人を「猛雄」と呼んだような事例もあつたため、抗告人はこの日常の不便を避ける目的で数年前から「健司」という名を使用していることについて、疎明があつたものといえる。果してそうだとすれば右抗告人の名は一般人から見てはなはだしく難解難読で社会生活上著しい支障があるものといつてよいと思われる。そこで抗告人が現在の名を前述の「健司」というような書き易く読みよい文字に変更しようとすることは戸籍法第一〇七条第二項に名の変更についていわゆる正当の事由に該当するものと解するを相当とし、このことは子の名に当用漢字を用いさせようとする戸籍法第五〇条の精神にも合致するものといえるから、抗告人の本件名の変更の申立を許容するのを相当と認める。よつて本件申立を却下した原審判は不当で本件抗告は理由があるので家事審判規則第一九条第二項により主文のとおり決定する。

抗告理由

先般来名の変更に就き、京都家庭裁判所に申立てしていましたが昭和廿五年二月十五日、右申立に対し却下の審判がありました申立人西村雄と致しましては、「雄」の字画煩雑、呼称音読の難解にして、社会生活上不便至極に鑑みまして、此の度の審判に服しかねますので今一度審議して頂きたく存じまして上訴致しました。何卒本件却下の判決を取消して下さいまして円満なる判定をお願いします。

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